日本では、臨床心理学の領域が、臨床の専門家養成ということになっていますが、大学院で、特定の心理療法理論や技術を指導することはありません。
まして、日本の大学院では、家族療法の概論でさえも教えないところが多いのが現状です。なぜならば、臨床心理学はあくまでも、心理学、すなわち学問であって、『治療論』や『治療の仕方』を研修するところではないからです。
PsychologyとTreatmentとでは、異なる理論や訓練必要とするのです。(当たり前ですね)
従って、心理学者ではなく、臨床家(Clinician)を目ざすのであれば、よって立つ理論体系が必要になります。
日本の専門家には、”心理学者" と"臨床心理士" と"臨床家"の区別がつかない人がたくさんいます。
この3つは、”心理”や”臨床”という言葉を共用しながらも、本来は、方向性も内容も異なります。日本では、マスコミの影響もあって、”こころのケア”というかなり、乱暴で雑なまとめ方で、まったく一緒に扱われています。
アメリカの”臨床家”は、各自が専門家としての理論モデルを持っていて、その理論モデルを基礎として、他のさまざまな療法のアイディアを加えたりして、独自のモデルを築いていきます。従って、自分の理論モデルを答えられない専門家は一人もいません。
医療の領域で、外科なのか眼科なのか皮膚科なのか、答えられないお医者さんはいないのと同じです。
家族療法だけに限って言えば、日本における家族療法は、一部の大変優秀で、本物の先生方を除けば、多くは『なんちゃって家族療法』です。つまり、個人療法を面接室にいる複数の来談者(つまり、家族)に当てはめているだけで、アメリカのオリジナルの家族療法とは似ても似つかない心理療法です。 (この文章の意味がわからなければ、家族療法家としてはもぐりです)
家族療法はグループ療法とも定義は異なるのです。ですから、家族療法のグループ療法というのも存在します。
したがって、家族療法のスーパーバイザーを見つけるのはさらに困難になります。
では、専門家としてなぜ理論モデルが必要なのでしょうか。一つの理由は、系統だった枠組みとしての治療をするためです。
理論モデルは、臨床の場で起こる内容に関して、それぞれ特定の見方をします。
理論モデルによってフォーカスが異なり、例えば、家族療法の中でもストラティージック(Strategic; 戦略的家族療法)理論では、人間同士の会話のやり取りの仕方や言葉の選択など、コミュニケーションに焦点を当てて治療計画をたて、それを進めていきます。
ボウエン理論は、その人間を取り囲む感情の動線に焦点をあてて、そこからの自立・自律を治療目的として治療計画を立てます。
本来、治療とは、治療計画があってそれに則って治療を進め、途中でその計画がその人のゴールとあっているかを確認する必要があります。つまり、経過観察です。その経過を評価するときに、最初の評価方法と、経過途中の評価方法が異なれば、何を評価しているのかわからなくなってしまいます。
そこで、専門家には、よって立つ理論が大切になるのです。