トラウマという言葉を、最近よく聞きます。
あまりにも、安易に軽い意味で使用されているような気がします。
本来は、人間の『生きる』という存在そのものを脅かすような、重い意味があるのですが、最近は『ちょっと傷ついた』とか『言われたことが気になる』という意味の代わりにも使われているような感じがします。
しかし、人間が、身体的にも、精神的にも傷つかずに一生終わるなんて、通常はありえません。
一般的には語られませんし、信じたくないことでもありますが、親子関係の問題でトラウマになることだってあります。幼児虐待やDVやその目撃。
親の離婚騒動だって、子供にとってはトラウマになったりします。
そして、親子関係内の感情的なもつれが、様々な症状(うつ、ひきこもり、人格障害、統合失調症、感情障害など)につながっていることもあります。家族関係が最も関連していると思われる症状のひとつに、摂食障害があげられます。
この摂食障害が、家族内の人間関係のあり方と関連しているという話は、アメリカの家族療法家では、知らない人はいませんし、家族療法が効果的であるという結果もでていますが、日本では全く知らない人のほうが多いため、個人療法しか行われないのが普通です。
親子とは、『愛情』の代名詞であると同時に、一番危険な関係でもあるのです。それ程に、心身ともに近い存在であるということなのです。
親子関係の状態は、様々なサインとして現れてきます。ただ、それをキャッチできる人とできない人、キャッチしても抑制力で、キャッチしていないことにしてしまう人(無視・抑制)、大した事でないと思ってしまう人(過少評価)、あるいは他者にぶちまける人などがいます。
不安を抱えながらも、当人が割と安全なのが、他者にぶちまけるタイプ。なぜならば、周りの人間に、苦しんでいるのがわかりやすいからです。また、当然、自分が抱えきれない不安や不満を吐き出しているのですから、『私は辛い』とか『私は苦しんでいる』など、ある意味で、自分にストレスがかかっていることを自覚しているともいえます。
当人にとって、もっとも安全でないのが、抑制や無視をするタイプでしょうか。つまり、自分の中に閉じ込めてしまおうとしたり、自分だけで処理しようとしたりするタイプ。
子供などは、親子関係の中で、この抑制するケースが多いのです。
長年、親子関係の中で、自己を抑制したケースは、本人も忘れたころになって、さまざまな症状を呈することも多いのです。しばしば、頭痛、睡眠障害、うつ、腹部膨満感、情緒不安定、摂食障害など、その根底に過去の清算されない家族問題を含めた、人間関係のトラウマが潜んでいることは、珍しくありません。 最近では、この事によって、人格障害を起こす可能性を指摘する、海外の報告もあります。その中には、いわゆる精神疾患を含めた、ありとあらゆる症状が含まれるのです。
例えば、結婚生活も上手く行き、かなり腕がよくて仕事も順調な男性弁護士が、40歳を過ぎてから急にうつ病にかかり、どうにもならなくなっってしまった。セラピーが進んで見えてきたことは、父親との関係であった、などという話は決して珍しいものではありません。
こういった、過去の清算されていない人間関係や出来事を、完結していない仕事(Unfinished business)と呼びます。
ですから、もし、その頭痛やうつ症状が、過去の人間関係を発端に起きているのなら、薬物療法だけではよくなりません。過去の人間関係を、心理的に、場合によっては身体的にも清算、解放する必要があります。
そして、それを解放する作業は、残念ながら一人ではかなり難しいのです。なぜならば、その辛さを閉じ込める手助けをしている要素の一つが、『自分自身』であることが多いからです。
どんな名医でも、自分の体を手術できないのと同じです。
何事も、それを創りだしたのと同じ思考回路から解決をすることはできない
―アインシュタイン
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